獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 ハミルはここで一旦言葉を途切れさせると、スッと床に片膝を突く。そうして目を見張る俺のマントの裾を戴いて口付けた。
「マクシミリアン・ヴィットティール陛下、あなたに永久の忠誠と敬愛を誓います」
 ヴィヴィアンが隣で息をのむ音が妙に大きく響いた。
 その時、打ち破られてフレームを残すだけとなったくり貫き窓から一陣の風が吹き込む。
 ハミルのやわらかな栗毛が風を孕んで揺れる。栗色の髪と一緒に、側頭部の虎耳も風を受けて僅かになびく。
 ……俺が欲しくてやまなかった獣人の証。それがないがために、母に疎まれ、帝位を追われようとしていた。
 その俺に、全てを手にしたハミルが膝を突く。
 この瞬間、あらゆる思いが胸に木霊する。それらの思いを噛みしめるように、一度ゆっくりと目を瞑る。
「ハミルよ、これより其方はハミル・グリュンフェルト辺境伯の名を名乗れ」
 再び瞼を開くとハミルを見つめ、しばしの間を置いて告げた。
 グリュンフェルト辺境伯領では、先代の辺境伯が後継ぎのないまま死去。以降、後継者不在のまま辺境伯位は空白のままだった。