「儂は虚空のごとき耳や尻尾に囚われ、目を曇らせていた自分が恥ずかしい。獣人の尊厳や誇りは、耳や尻尾に見いだすものではない。あなた様の御心にこそ、真実はあったというのに」
「真実をなにに見いだすか。そんなのは人それぞれで、人の数だけ正解があっていい。俺もまた其方同様、己の正義に則り皇帝として邁進するのみ。……とはいえ、こうも熱く賛同を示されたなら、これを託すことに否やはない。後のことはお前に任せた。緊急の案件は伝書鷹を飛ばせ。俺の元まで最短で飛ぶよう調教できている」
 書き上がった委任状を、財務大臣に差し出した。
「ハッ! 必ずや、陛下のご意思に沿わせていただきます」
 恭しい手つきで財務大臣が手にした次の瞬間には、俺はカロスを伴って政務室を飛び出していた。
「コスタ領に出発だ! 遅れを取るな!」
 俺は逸る思いのまま、カロス以下数名の隠密部隊員を伴ってコスタ領を目指した。そうして限界すれすれまで速度をあげ、東の空が薄っすらと白み始め間もなく日の出という時分、ついに周辺の家屋より頭ひとつ分高い離宮を視界に捉えていた。