獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「カロス、俺はこの判断が己の状況を一層苦しいものにすることを承知している。その上で、ヴィヴィアンの救出を人任せにはできん。かといって、帝位を退く気も更々ない。歴史上、皇家のお家騒動に端を発した皇帝の代替わりで、いい結果をもたらした例を俺は知らん」
 カロスは俺の言葉……特に『帝位を退く気も更々ない』の件で僅かに目を見開き、ジッと続きに耳を傾けた。
「新皇帝即位に伴い、一時は特需に沸く。しかし、そんなものはほんの一瞬。その後の経済低迷により国民がどれほどの負担を強いられるか、歴史を振り返れば火を見るより明らかだ。自身の保身や名誉ではない、皇帝として俺には国民を守る責任がある。一方で俺は、己の大事な者の窮地を見過ごす男にもなりたくはない。だから、お前の申し出を受け入れることはできん。ヴィヴィアンは、俺がこの手で救い出す」
 カロスはスッと表情を引き締めて、静かに口を開く。