獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「……マクシミリアン様、差し出がましいことを申しますが、ヴィヴィアンの救出を我らに任せていただくわけにはまいりませんか。現在、マクシミリアン様を取り巻く状況は大変に厳しいものです。この状況でマクシミリアン様が皇宮を空けては、取り返しのつかない事態にもなりかねません」
 帝位就任前から長く苦楽を共にしてきた忠臣のカロスだが、これまで俺の決断や指示に対して意見というのは一度もしたことがない。
 そのカロスがはじめて寄越した忠言は、世情を的確に読み取った真に迫るものだった。
 カロスの言葉通り、俺の進退がかかっているのはもちろん、今は国政や外交関係で難しい政治判断が迫られる大事な局面だ。ここで皇宮を不在にしては、皇帝としての政治責任を放棄したと捉えられても仕方なく、排斥論を助長させるのは目に見えていた。
 せめて俺の政治意思を代弁する者が立てられればいいのだが、近習の救出という極めて私的な理由とあっては、俺に友好的な高官らにも頼むことが憚られた。