獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「入れ」
 俺の入室許可を得て、扉から顔を覗かせたのはカロスだった。
 ……そう。侍従長としての表の顔とは別に、カロスは隠密部隊の長という顔も持っているのだ。
「襲撃犯の一名が口を割りました」
「首謀者は?」
 カロスからの報告を受けて端的に問うも、彼は眉間に深く皺を刻みなかなか口を開こうとしなかった。
 俺にとってはその反応こそがなによりの答えで、聞かされずとも首謀者が知れる。
「……やはり、そうか」
 同時に、俺の胸には僅かばかり安堵も浮かぶ。誘拐犯が母ならば、すぐにヴィヴィアンに危害を加えることはない。
 彼女は何某かの思惑があって、ヴィヴィアンを交渉材料にするべく攫ったに違いないのだから。
「お前のことだ。母上の足取りも全て掴んでいるのだろう?」
 カロスはほんの一瞬、労しげに表情を曇らせたが、すぐに表情を引き締めた。
「皇太后様は昨日まで皇都の外れにありますもぐりの医師の元に身を寄せていたのですが、昨日朝のうちに離宮に向けて発たれています」
「もぐりの医師だと?」