獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「……待っていろ、ヴィヴィアン。じきに助け出してやる!」
 星々が輝く夜空に向かって、唸るように叫んだ。
 そもそもの事の起こりは三日前。帝国劇場を後にした俺たちは、国立研究所に移動した。馬車を降り、国立研究所に入所しようとしたところを、突然複数人の男たちに襲われたのだ。
 俺やガブリエルは相当に腕が立つから、襲い掛かる襲撃犯を返り討ちにしたが、アンジュバーン王国の外交官に軽傷者を出す事態になってしまった。
 ガブリエル本人は立腹どころか、むしろ窮地に追い込まれた俺の状況を面白がって笑っていた。とはいえ、ガブリエル個人の感情如何に関わらず、国と国との関係はそう単純なものではない。
 この襲撃事件によって我が国の信用は著しく失墜。アンジュバーン王国との交渉は一時中断を余儀なくされ、ガブリエルは即日、帰国の途に着いた。
 以降、国民は視察中の襲撃を許しアンジュバーン王国との交渉チャンスをふいにした俺への不満を噴出させ、現在皇宮前に続く通りでは俺の排斥を望む抗議集会が催される事態になっている。