獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「ガブリエル陛下があなたを気に入った様子だというのは、早い段階から報告を受けていたわ。この計画でマクシミリアンの排斥が見込める一方、重要なアンジュバーン王国との外交交渉は一旦棒に振ることになる。私はハミルの治世に再び交渉の窓口が開けるように、なんとしても縁を繋いでおく必要があったの。それで白羽の矢を立てたのがあなたってわけ。ハミルの名であなたを贈れば、陛下はさぞお喜びになるでしょう。そうなれば、自ずと道も開けてくるわ」
 驚きに言葉を失くす私に、皇太后様は流れるように語る。
「マクシミリアンが目に入れても痛くない可愛がりようで重用するあなたを下げ渡して、かつガブリエル陛下のご機嫌も取れるとなれば、こんなに面白いことはないわ。ふふふっ。あなたはご存知? アンジュバーン王国では、我がヴィットティール帝国よりもずっと恋愛観が自由で寛容なんですって。そして彼の陛下もそちらに偏見はないようだから、よーく可愛がっていただけるんじゃなくて?」
 下品であからさまな侮辱に、怒りで目の前がカッと朱色に染まる。