獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 目を見開いて言葉を失くす私に、ユリアは強い意思を宿した目をして語る。言葉の途中に一部、ゴニョゴニョと聞き取りにくい部分があったが、最後の台詞はしっかりと聞き取れたから問題はないだろう。
「ありがとう、ユリア。姉様にあてて手紙を認める。それを届けてくれるかい?」
「はい! お任せくださいませ」
 漁師をはじめ港で働く者の朝は早く、夕刻前にはその日の仕事を終える。ユリアとも話し合い、スタッフの出勤時刻に合わせ未明に出発してもらうことになった。
「女性に夜のひとり歩きなど、本来させるべきではないのだが……」
「いえ。ここは港町ですから、漁港勤めの方たちは皆、そのくらいの時間に家を出ます。ですから、存外通りには往来があるのです。それらの流れに紛れられ、ちょうどいいですわ」
「ありがとうユリア、恩に着る」
「とんでもない、私がしたくてやっていることです。では、たしかにお預かりいたします。この後は一旦持ち場に戻り、未明に出発いたします。……あの、ヴィヴィアン様」
 ユリアは手紙を胸に部屋を後にしかけ、思い出したように振り返った。