獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 かく言う俺ですら、彼を前にすると胸に不可思議な騒めきを覚えるくらいだ。本人の思惑によらず、彼の魅力は皇宮に色恋沙汰のトラブルを巻き起こす火種となり得る。そんな事態が今から目に浮かぶようで、自ずと眉間に皺が寄る。彼を見つめる眼差しも、しらず険を帯びた。
 俺は鈍く痛むこめかみに手を添えて、憚らず特大のため息をついた。
 ……勘弁してくれ。
 俺はただでさえ身の内に特大の弱点を抱えているんだ。正直、これ以上の面倒事は御免だ。
「ヴィヴィアンと言ったな、俺の邪魔だけはするな。問題を起こすようなら即解雇する。肝に銘じておけ。代わりはいくらでもいる。辞めたくなったらいつでも辞めろ」
 俺はぞんざいに言い放つと席を立ち、ヴィヴィアンから背中を向けた。

***

 初見の挨拶の場で厳しい台詞を言い残して去っていく陛下のうしろ姿を眺めながら、私は放心状態で立ち尽くす。
 ……うそでしょう? なに、今の!?
 同室に控える女官や侍従も、扉前に立つ近衛兵も、戸惑った様子で私と陛下をチラチラと交互に見つめていた。