……いったい、なにをブツクサ言っているんだ?
「おいガブリエル、舞台の感動は分かるがいつまでそうしているつもりだ」
 ガブリエルの態度を訝しみつつ尋ねるが、一向に答えは返ってこない。
 ……ふむ、変わった感動表現もあるものだ。
 唸り続ける彼を横目にして、俺はあり余る感動が少しばかり頭をおかしくしているのだろうと結論付ける。
 どちらにせよ、今はこれ以上声を掛けても無駄だろう。
「俺はこの後の確認がある。先に行くが、ガブリエル陛下には、ひと息ついてからゆっくり馬車の方に回ってもらってくれ」
 俺は案内役の女性に言付けると、担当官に次の視察先の状況を確認するため、ひと足先に席を立った。

 次の視察先の準備が万端との報告を受け、身を切る思いでヴィヴィアンを待たずに向かう決定をした。
 今が国の行く末がかかる重要な視察の最中で、ガブリエルを最優先にするべきだと頭で分かっていても、将来の伴侶となる大切なヴィヴィアンを置いていくことは半身をもぎ取られるような苦しさを伴った。