獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 モンターギュ男爵家は貴族位としては下位にあたるが、建国から続く由緒ある地方領主で、かつ皇帝の近習を代々輩出している名門だ。早世した先代当主のジェフリーは俺の父の有能な近習で、幼い俺も彼にはずいぶんと世話になった。
 そしてジェフリーと特段親しかったカロスは、その息子の近習就任に感慨もひとしおのようだった。
「すぐに向かおう」
 俺は朝議の資料を政務机に放ると、カロスを伴って謁見の間に足を向けた。
 重厚な両開きの扉の前で控えた近衛兵は、俺の到着にピッタリとタイミングを合わせ、機敏かつ優美な所作で左右から扉を引き開ける。
 俺が銀糸で繊細な蔦模様が総刺繍された純白のマントをはためかせながら足を踏み入れた瞬間、壁寄りに控える皇宮侍従や女官らの背筋がミリ単位でピンと伸び、その口元が引き締まる。