獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 沈黙を割ったのは、背後からあがった婆やの呪い……ではなく、婆やの嘆き節。しばらくこれが聞けなくなると思うと、不覚にも寂しさを感じた。
 とはいえ、しんみりとした別れはしたくない。私はあえて軽い調子で、トンッと婆やの肩を叩いた。
「こらこら、婆や。そう嘆くことはない。来月の休みには帰ってくる。どうか僕の留守中、母様と姉様のことを頼んだよ」
「えぇえぇ! 奥様とマリエーヌお嬢様、そしてお屋敷のことはこの婆やに、ドーンとお任せください! マクシミリアン皇帝陛下は賢帝と称えられる一方で、冷徹なお方とも言われております。実体は分かりませんが、ヴィヴィアン様はご自身のお勤めのことだけ考えてくださいませ!」
 婆やはスンッとひとつ洟を啜ると、言葉通りドンッと胸を叩いてみせた。だけどその目には涙の膜が浮かんでいたし、握った拳も小刻みに震えていた。
 赤ん坊の時からずっと成長を見守ってくれた彼女が、どんなに私のことを思い心を砕いてくれているか、改めて身に沁みる。
 婆やの精一杯のエールが心強く、そして嬉しかった。