困惑しつつ即答すれば、マクシミリアン様の目がギョッとしたように見開かれる。
「……覚えていないのか」
「え?」
「問題ないならいい。馬車はもう用意できているのだろう? 行くぞ」
「は、はい!」
 私が聞き逃した小さな呟きの意味を問い質すより前、マクシミリアン様はバサリとマントを捌くと、大股で玄関へと足を向けた。
 後に続きながら、自ずと目が私の前で空気を孕んで翻るマントに留まる。それは昨日、私が独断で用意し直した厚地のマントだった。
 玄関ホールに到着すると、近衛の手で左右に扉が開かれて、温かな城内にヒンヤリとした外気が入り込む。マクシミリアン様が玄関の外へと踏み出しながら、自然な仕草でマントの首もとを深く掛け直すのが視界の端に映る。
 目にした瞬間、一気に嬉しい気分になった。
「ガブリエルはまだのようだな。馬車に乗って待とう。ヴィヴィアン、来い」
 マクシミリアン様は玄関に横づけされた馬車にヒラリと乗り込むと、中から私に手を差し出した。
「はいっ!」