あるいは、この段階で遠ざけることが互いの為になるのではないか。けれど、そんな理性的な思いとは裏腹に、一度知ってしまった温もりは手放すことが惜しい。
 俺はヴィヴィアンを近習に迎え、窮屈な鳥籠と諦めた皇宮でガブリエルと諸国を回っていた時に勝るとも劣らない充実の日々を過ごしている。この温かで心地よい居場所を失うことが心細く、彼を手放す決断に踏み切れない。
 その時、ふいに『お前のような考えを持つ女を妃に娶りたかった』と、ヴィヴィアンに以前告げた戯言が思い出された。
 フッと自嘲な笑みが浮かぶ。
「……お前が女だったらよかったのにな」
 健やかな寝息を立てるヴィヴィアンに向かって、小さく願望を呟きながら腰を折る。彼の額に唇を寄せ、その表層にそっと触れるだけのキスをする。
 唇が滑らかな額を掠めた瞬間、カーテンの隙間から注ぐ星々がその光量を増し室内を照らす。眩しい星々に見咎められたかのような気まずさを覚えた。
 弾かれたように顔を引かせた俺は、ヴィヴィアンに掛布をかけ直してやると、星空に背中を向けて足早に寝室を後にした。