獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 そうこうしている内、手の中の酒瓶がガブリエル様に奪われてしまう。そのままあれよあれよと言う間に琥珀色の酒をなみなみと注いだ杯が目の前に差し出された。
「こいつぁ巷ではなかなか飲めん上酒だ、飲んでおいて損はねえぜ!」
 ガブリエル様は私の背中をバッシバッシと叩きながら上機嫌に笑う。お酒によって笑い上戸に一層拍車がかかっているようだった。
「で、では、一杯だけ。頂戴いたします」
 無碍に断るもできず、おっかなびっくりに杯の長い脚を掴む。
「おうっ、グイッと飲め!」
 ……え、グイッと?
「っ、待てヴィヴィアン!! その酒は――」
 ガブリエル様に言われるまま手にした杯をグイッと傾けたのと、マクシミリアン様の鋭い制止の声が空を割ったのは同時だった。
「っ!?」
 口にした瞬間、発火でもしたみたいにボンッと全身が熱くなる。目の前の景色もグニャリと撓み、ぐるぐると視界が回っていた。