獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 正直満天の星々を見ているよりも、よほど目に楽しかった。
 ……それにしても、ふたりともよく飲むなぁ。
 空いた杯にすかさず酒瓶を傾けて、琥珀色の液体を注ぐ。ふわりと鼻腔を擽る濃厚な酒精の香りに、実際に喉を潤さずとも酔いが回ってきそうな錯覚がした。
「それにしても、こうしてまたお前と酒を酌み交わす日が来ようとは思ってもみなかったぜ」
 ガブリエル様が杯の脚をゆるく回して中のお酒を揺らしながら、感慨深げにこぼす。
「そうだったのか? 俺はてっきりお前からヴィットティール帝国来訪の打診を受けた時、また酒でも飲みたくなったのだろうとピンときたがな」
「はははっ。独裁を自負する俺でも、さすがにお前と酒が飲みたいがために鎖国の解消に舵を切るほど、考えなしの君主じゃねえぜ」
「お前が独裁者だろうと考えなしだろうとどうでもいいが、ヴィットティール帝国との国交正常化は是非なしておくのがいいぞ」
 ふたりの会話は尽きなかった。特にマクシミリアン様はお酒が入ったからか、ガブリエル様との久方ぶりの再会に興奮してか、常になく饒舌だった。