獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「ふふっ。男爵なんて下級貴族の名は、あってもなくてもそう変わらないわ。そもそも、あなたの出生時に女児と届け出ていたら、先だって亡くなった賭博狂いの叔父様が当主になって家はとっくに破産していた。今さら取り潰しなんて恐れることもないわ。今なら、私の稼ぎでお母様とあなたのふたりくらい幾らでも養ってあげられるしね」
 姉様はヒョイと肩を竦め、サラリと続けてみせた。
 他国では女王を戴く国もあるというのに、いまだ我が国においては「幼少時は父兄に、結婚したら夫に、夫の死後は長男に従う」という前時代的な考えが根強い。だから姉様の『私の稼ぎ』という台詞は、実は外で安易に呟こうものなら、天地がひっくり返るくらい驚かれる仰天の事実だったりする。そしてこれこそが、私が姉様に頭が上がらない理由でもある。
 事業経営の分野で天賦の才を持ち、女の細腕一本でこの男社会で巨額の富を築いた姉様は、いわばバケモノ。端から敵うはずもないのだ。