獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

 国中が歓迎ムードに湧き上がる中、ついにアンジュバーン国王ガブリエルを乗せた馬車列が皇宮の正門をくぐった。
 皇宮の玄関ホールには正装で着飾った高官らが緊張の面持ちで立ち並び、ある種独特な緊張感が漂っていた。
 馬車が停車し、ガブリエルが降車すると、俺はすかさず進み出て形式的な口上で出迎える。
「ガブリエル国王陛下、遠路はるばるよくいらしてくださいました。貴殿に会えるのを心待ちにしておりました」
 ガブリエルは南国出身らしい日に焼けた肌に、赤茶色の短髪とヘイゼルの瞳を持つ筋骨隆々の大男だ。よく通る大きな声で話し、よく笑う彼は、豪胆な見た目から大雑把な性格と思われがちだが、本質はそうではない。
 俺はかつて彼と寝食を共にしたからこそ、よく知っていた。豪快に笑みを浮かべながらもヘイゼルの目はいつだって眼光鋭く周囲を観察しているし、脳内では常に情報を精査分析して知略を巡らせている。ガブリエルは大雑把とは対極、隙の無い切れ者だ。