獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「なんて夢心地なんでしょう。こんなに気持ちいいブラッシングは初めてよ」
「喜んでいただけて僕も嬉しいです」
 丁寧にハーブスプレーを揉み込んで、借りたブラシをあてていく。
 ……ふふっ。毛がふわふわになった。
 ブラシを通すごとに、毛が見違えるように艶やかになっていくのが分かった。
「あぁ、気持ち良かったわ。ねぇヴィヴィアン様、あなたにはブラッシングの天性の才がおありよ! 間違いないわ、だってあなたの手は身も心もぐずぐずに溶かしてしまう。まさに魔法の手よ!」
 マッサージの終わりに、奥様が目をキラキラと輝かせて言った。
「ヴィヴィアン殿、儂も尻尾のマッサージをお願いしていいだろうか!?」
 横で見ていたシルバさんがゴクリと喉を鳴らしたかと思ったら、勢い込んで頼み込んで来た。
「もちろんです。ではいきますよ」
「……ぬぁあ、たしかにこれは夢心地だな」
 シルバさんも私がひと撫でした瞬間に、うっとりと呟いて、ゆらーりゆらーりと尻尾を揺らした。
「よかったです。そのままリラックスしてらしてください」