獣人皇帝は男装令嬢を溺愛する ただの従者のはずですが!

「その通りだ。儂はいつだって運がいい。君を妻に迎えられたことも。こうして家族を失わずに済んだことも。……今回の法改正で、獣人の血は一層薄くなるだろう。それは当家も例外でなく、息子の選んだ嫁の家系はざっと数百年遡ってみても耳と尻尾を持つ先祖まで行き着かん。おそらく孫は、耳と尻尾を持たんで生まれるだろう。儂自身、それを残念に思う心はゼロではない」
 シルバさんは重く口を開いた。
「儂はかつて『血が薄まれば、獣人としての尊厳や誇りといったものも共に薄まり、獣人国家は立ち行かなくなってしまう』と声高に主張して憚らなかった。その思いは今も変わらず胸にある。一方で、耳と尻尾が無かろうが、純粋に孫の誕生は喜ばしい。法改正は既に決定したが、儂はいまだこのふたつ思いの狭間にあって答えに行き着けていない。そしてこの思いに折り合いをつけて昇華させるには、もう少し時間がかかりそうだ」