「だけど現在の法律では、農家出身の娘を我が伯爵家の嫁には迎えられない。息子もそれを分かっていて、『法が改正されなかった時は、自分が出て行く。この家に妻として迎えることが出来なくとも、町に下りて三人で所帯を築く』と意思は固かったわ」
「……『獣人の未来』と『息子の結婚』、このふたつを前に儂は迷った。しかし一政治家として、こんな私的な理由で意思を覆すことはできないと心を鬼にし、改めて法改正反対の決意を固めた。……ところが実際には儂が票を投じることはなく、結果的に家族も失わずに済んでいた」
「私はね、息子たちと共にこの家を出て行くつもりでいたの。主人がそんな非道を貫くのなら、もう家族ではいられない。政治家として勝手にひとりで生きていったらよろしい、ってこう思っていた。そうしたらまさか、耳の病気で議会を欠席ですって。……まったく、あなたは昔からここぞという時に運のいい人ね」
奥様はヤレヤレというように肩をそびやかし、愛しさと呆れが半分半分といった目でシルバさんを見た。
「……『獣人の未来』と『息子の結婚』、このふたつを前に儂は迷った。しかし一政治家として、こんな私的な理由で意思を覆すことはできないと心を鬼にし、改めて法改正反対の決意を固めた。……ところが実際には儂が票を投じることはなく、結果的に家族も失わずに済んでいた」
「私はね、息子たちと共にこの家を出て行くつもりでいたの。主人がそんな非道を貫くのなら、もう家族ではいられない。政治家として勝手にひとりで生きていったらよろしい、ってこう思っていた。そうしたらまさか、耳の病気で議会を欠席ですって。……まったく、あなたは昔からここぞという時に運のいい人ね」
奥様はヤレヤレというように肩をそびやかし、愛しさと呆れが半分半分といった目でシルバさんを見た。



