「……はぁ~、とんだ女泣かせもいたものだわ」
 そんな私を姉様は白い目でジッと見つめたかと思えば、特大のため息と共に呟いた。
 姉様のツレない反応に、「素直に是と頷いたのに、なんでだ!?」と内心で理不尽に吼えた。


 各々の思惑に関わらず、月日は巡る。
 そして今日、私はついにヴィットティール帝国皇帝マクシミリアン様の近習として皇宮にあがる。
「お母様、マリエーヌ姉様、いってまいります」
 屋敷の前で見送りに立つふたりに礼を取り、別れの言葉を告げる。
 すると、いつでもニコニコと微笑みを絶やさぬお母様が、引き締まった表情で私の前に進み出た。
「ヴィヴィアン、私はあなたの犠牲を望みません。無理だと思ったらいつでも帰っていらっしゃい」
 掛けられたお母様の声はいつもとは違う強さを宿し、視界に映る私と同色の瞳は凛と冴え渡っていた。
 初めて目にするお母様の姿に、私は微かな驚きと共に見入った。