そのとき、目の前から二人組の男が歩いて来た。そのうちのひとりは、先ほどまで陛下といた初老の男性だ。
ベルナルド様はどこ?ホールに戻ってすれ違ったのかしら?
とっさに廊下の曲がり角に身を潜めて様子をうかがうと、低い男性の声が耳に届く。
「首尾は上々か?」
「はい。エピナント国の騎士は、全員眠らせて東棟のベッドルームに放り込みました」
「ふふふ。獣人といえど酒に酔えば子猫同然だ。猫にまたたびと言うが、ルビ草の効果はてきめんだな」
背筋に震えが走った。
ルビ草は、ウイスキーなどの原料としても使われる植物で、匂いもクセもない柔らかな口触りになるという。
しかし、奴らの会話から察するに、獣人にとっては効きが強いのだろう。獣の力を持つレンテオさんたちはヒトよりも嗅覚に優れているため酔いやすいはずだ。
「舞踏会で人がホールに集まっているうちに、酔い潰れた獣人を始末するんだ。目撃者はいない」
「でも、大丈夫なんですか?他国の要人を手にかけたと知られれば、モンペリエ国の立場も悪くなります」
部下らしき若い男性は不安げである。しかし、微塵も焦らない首謀者はとんでもないセリフを口にした。


