陛下は受け取った小瓶を不思議そうに眺めている。

 やがて、表情ひとつ変えずに続けた。


「まるで別れの餞別(せんべつ)だな。誰がお前を逃がすと言った?」

「え?」


 予想外のセリフが飛んでくる。

 てっきり、薬師の腕を証明した私はスパイの疑いが晴れ、この城にいる理由が無くなると思い込んでいた。


「まだ、私を疑っておられるのですか?」

「いや。お前のような非力な子兎、たとえ諜報員だとしても取るに足らん。他に利用価値があるまでだ」

「利用価値?」


 優雅に立ち上がった陛下は玉座に腰掛けて気だるげに足を組む。


「昨夜の騒ぎの話をボナから聞いたのなら、くだらない噂も耳に入っているだろう?」


 心当たりはある。私が寵愛を受けている傾国の美女だというデマだ。

 つい意識して頬を熱くすると、陛下は低く続けた。