悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました


 ふと思いたって新しいビーカーを片手に作業を進めて数時間が経った頃、薬室の扉を騎士が叩いた。


「エスター様、夕食のお時間です。そろそろ戻りましょう」

「わかりました。ありがとうございます」


 すっかり見慣れた騎士に返事をして、共に植物園を出る。 

 明日の準備も完璧に整えて晴れやかな気分で歩いていると、城内がやけに騒がしいと気づいた。


「なにかあったんですか?」

「あ、いえ。実は陛下が……」


 騎士が言いかけた瞬間、鉄臭い匂いが鼻を刺す。空気に混じって漂う異質な匂いの正体に胸騒ぎがする。

 目の前に、悠々とこちらに歩いてくるシルエットが見えた。ベルナルド陛下だ。頬には鮮血が付き服もマントも血みどろで、背筋が凍る。
 

「ベルナルド様」


 つい、声をかけてしまった。

 彼の表情は微動だにしない。


「どこかお怪我をされたんですか?」


 私の薬師としての腕が役立つなら。そんな考えがよぎっていたが、すぐに違うと悟った。

 血で汚れてはいるものの、体に傷ひとつない。片手に持つ剣は真紅に染まっている。

 この手で、誰かを殺したのだ。