記憶の中でこだましたのは、来るはずのなかった未来への甘い命令だ。
もう我慢をする必要はない。
迷いも不安も振り切って、たくましい胸に飛び込む。しっかりと受け止められて、強く強く抱きしめ合った。
あぁ、帰ってこれたんだ。大好きな彼の元に。
緊張が途切れた瞬間、素直な言葉があふれる。
「ごめんなさい。ベルナルド様に本当のことを言わないで、傷つけました」
「謝るな。お前の嘘はすぐ見抜ける。俺を愛していないフリをして、いまだにネックレスを手放さない。そんな可愛い女が他にいるか」
首元に光るのは、チョーカーの代わりにプレゼントされたネックレスだ。結婚式当日になってもどうしても捨てられずに着け続けていた。
そのとき、耳元で彼の声が届く。
「実は、俺もひとつお前に嘘をついた」
「嘘?なんの話ですか?」
ベルナルド様は正装のジャケットを脱ぎ捨て、シャツのボタンに手をかけた。
だんだんとあらわになる肌にどこを見ていいかわからず視線をさまよわせていると、やがてあることに気づく。
心臓をむしばんでいたはずの黒い痣が綺麗さっぱり消えている。



