どこからか、可愛らしい猫の鳴き声がした。グレイソンとともに視線をおろすと、扉の隙間から黒猫が現れる。
翠の瞳が私を映した瞬間、わずかに細まった。
「ノラ猫か?まったく、どこから入り込んだんだ。結婚式場に不吉な黒猫なんて縁起が悪い」
顔をしかめたグレイソンが窓の外へ逃がそうと小さな体を抱き上げる。
しかし、おとなしかった黒猫は、触れられた途端に瞳孔を細めて勢いよく手を引っ掻いた。
「ぎゃあ!?こ、こいつ!」
怒りに震える彼の腕から身軽に抜け出し、椅子に腰掛けていた私の膝へと飛び乗ってくる。
一瞬だけ尻尾をくるんと腕に絡ませて、自ら窓枠へと登った。
気まぐれでイタズラ好きの黒猫が外へ逃げていく背中を呆気に取られて眺めていると、廊下から騒がしい音が響く。
「グレイソン様、大変です」
真っ青な顔で部屋に飛び込んできたのは、グレイソンの屋敷に勤める使用人たちだ。式場の準備に追われているはずの彼らは、非常に焦っている。
「騒がしいな。俺は今機嫌が悪いんだ。式までは時間があるだろう。トラブルはそっちでどうにかしろ」
「私たちではどうしようもできません。大変な事態が起こりました」
大変な事態?
眉を寄せると、使用人たちは予想をはるかに超えたひとことを放つ。
「式場の周りを、獰猛な獣たちが囲んでいます」
「なんだと!?」



