ぽっかりと心に穴が空いた虚しい人生で、『エピナント国がモンペリエ国をくだした』という勝利の情報だけが支えだった。
悪事を働いていた幹部を仕留め、罪のない国民や権力に逆らえない騎士の命は奪わない、最小限の被害にとどめたという噂だ。
敵を問答無用で切り捨てていた頃とは違う。ベルナルド様は、もう冷酷な獣ではない。
薬は無事に効いたのかしら。顔を見たい。今すぐ会いたい。
そんな夢物語を思い描き、やがて結婚式の当日となった。
純白のドレスに身を包んでも気分は落ち込んだままだ。控え室に顔を出したグレイソンは、不敵な笑みで歩み寄る。
「暗いな。そんな顔をしないでくれ。君に不自由な暮らしはさせないよ。食べたいものも欲しいものも、なんでも買ってあげる」
「……必要ないわ」
「こんなときまで冷たいね。まぁいい。今は受け入れられなくても、エスターが俺の妻になるのは変わらない事実だ」
逃れられない運命に捕らえられた気がした。まるでイバラのように絡みついて、身動きをしただけで心に傷がつく。
グレイソンの妻になれば自由はない。一生町の住人から白い目で見られる人生が続くのだ。大好きな人と温かい家庭をつくるなんて、夢のまた夢。
もう、ベルナルド様への想いも捨てなきゃ。
無言で手のひらを握りしめたそのときだった。
「にゃあん」



