「これで契約成立だな。式はいつにする?君はうちの屋敷で暮らすだろう?」
「触らないで。……そのことだけど、結婚はレドウ草の薬ができるまで待ってほしいの。この手で患者を救ってから、心残りなく故郷に戻りたい」
彼は不服そうだったが、唯一の望みをしぶしぶ了承した。
グレイソンの所有する馬車を借り、急いで古城へと向かう。植物園の薬室に飛び込むと、ドミニコラさんは実家に帰ったはずの私の姿に驚いて目を丸くした。
声をかけられる前に麻の袋を差し出す。
「ドミニコラさん、これを」
「レドウ草じゃないか!この艶と葉脈は間違いない。エスターさん、いったいどこで手に入れて来たんだい?」
自分の人生と引き換えに受け取ったとは言えない。必死に平静を装ってごまかす。
「故郷にある植物園の経営者に譲ってもらったんです」
「国内にないと思ったら、ブルトーワの植物園が買い占めていたんだね。いったいいくらで仕入れたの?主に話せば、資金を出してくれるはずだよ」
「い、いえ。お金とかではないんです。とにかく、一刻も早く治療薬を作り始めましょう」
初めての実験は失敗も多い。ベルナルド様の血から抽出した毒の成分と、レドウ草の試薬を混ぜてひたすら薬効を確かめた。
ドミニコラさんは集中力を切らさずに調合を続け、私は助手として試験管の様子を紙に記録していく。



