早朝に身ひとつで古城を出て森を抜けると、午前のうちに懐かしい故郷が視界に映った。
クラシカルなレンガ造りの建物が並び、清潔感のある町だ。
花がいたるところに植えられていて明るい雰囲気だが、足を踏み入れた途端、歓迎されていない空気が肌を刺した。
「見ろ、エスターじゃないか」
「今さら町に帰ってきて、なにをするつもりなんだ?」
ひそひそと飛び交う会話は聞いていて気持ちの良いものではない。皆、追放されたはずの悪役が舞い戻った光景が信じられないようだ。
植物園で出迎えたグレイソンは自分の思い通りに事が運び、満面の笑みである。
「待っていたよ、エスター。本当に来てくれたんだね」
「あなたの条件をのむ他に方法がなかっただけよ。レドウ草はどこ?」
「焦らないでくれ。ちゃんと用意してある」
麻の袋に大量の緑の葉が詰められていた。
中身を確認すると、ドミニコラさんのまとめた図鑑に記されたレドウ草と全く同じ見た目である。
よかった、本物だ。やっとベルナルド様を救う薬草が手に入った。
緊張と感動で袋を受け取った手を震わせていると、グレイソンは馴れ馴れしく肩を抱く。



