再び溢れそうになる涙をこらえてソファを立つ。素早く部屋を出ようとしたが、軽く引きとめられる感触がした。
視線の先で映った光景に、胸がときめく。
「あ、あのベルナルド様」
「ん?」
「ええと、尻尾……が」
モフモフの白い尻尾が腕にゆるく絡んでいる。彼は完全に無自覚だったのか、私の指摘に目を丸くした。
足を組み、頬杖をついて視線をそらす。
「振りほどけるうちに早く行け」
ツンとした冷たい口調だが、どこか柔らかい。
名残惜しく腕を引くと、ぽつりとつぶやかれた甘い声が鼓膜をくすぐった。
「戦が終わり故郷から帰ったら、俺の腕の中に来い」
生き抜く覚悟の込められた口説き文句に胸を打たれる。部屋を出ると、頬がカッと熱くなった。来るはずのない未来が尊く感じて、目頭が熱い。
あなたの腕に飛び込めたら、どれほど幸せなのだろう。もう二度と会う機会はない。
誰よりも気高く優しい陛下を愛していました。
「さようなら、ベルナルド様」
直接伝えられなかった別れをつぶやき、夜が明ける。



