ブルトーワ国にランジェット夫妻はいない。私を待ち構えているのは、一生好きになれない旦那候補と、私を良く思っていない町の住人だけだ。
身を案じて喜んでくれる言葉がなによりもつらい。
全て嘘。自分の意思で帰るわけじゃない。レドウ草を手に入れるため、あの地獄に戻るの。
そのとき、彼の長い指がこちらへ伸びた。チョーカーを軽く引っ張られてドキリとする。
「傷跡は消えたな」
剣で斬りつけられた跡は綺麗さっぱり塞がっていた。だいぶ薄くなり、ほとんど目立たない。
チョーカーを返さなくてはと思ってはいたが、名残惜しくて黙っていたのだ。
「長い間お借りしてしまって、すみません」
「いや、このタイミングでちょうど良かった」
思わぬ返答に首を傾げると、彼の指はチョーカーを外した後、肩を抱くようにまわった。
冷たい感触がして視線を落とすと、首元に光ったのは小さな宝石のついたネックレスだ。細い銀の鎖が肌に触れている。
つい、目を見開いた。



