悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました



 戸惑いながらノックをして部屋に入ると、ソファに腰掛けていた彼は無言で体をずらして隣を空ける。

 ふたりで他愛ない話をしていた頃から、そこは私の定位置になった。

 うながされるまま座って見上げると、ふるるっと揺れるケモ耳が視界に映る。

 顔色も良さそう。自力で起き上がれるようになって本当に良かった。


「お体は大丈夫ですか」

「心配はいらない。ここのところ安定している。お前と会えないことだけが気がかりだった」


 胸の奥にしまったはずの恋心が跳ねた。

 本心を秘めたまま、作り笑いをする。


「庭に行く時間がなかなか取れなくて」

「薬師の仕事に加えて、使用人の手伝いもしていたんだろう?ボナから聞いている」


 彼は穏やかにこちらを見つめて続けた。


「明日から実家に帰るんだろう?」

「はい。冤罪が晴れたので、ブルトーワ国に戻れるようになったんです」

「家族と再会できそうで良かったな。古城も戦火に巻き込まれない保証はない。お前が安全な地で暮らせるなら俺も安心だ」