「そうだ。やっと主の体調が落ち着いたよ。食事も取れるし、ひとまず峠は越えたな」
「よかった。調合した薬が効いたんですね」
「気休めのようなものだけどね。今は呼吸も安定してぐっすり眠ってる。会いに行くかい?」
少し考えて、首を振った。
きっと、彼の顔を見たら泣いてしまう。すぐに帰って来れなかったのも、心が落ち着くまで時間がかかったからである。
「起こしてしまってはいけませんから、後日お話ししに行きます」
「そう?君が主のそばにいるのが一番癒しになると思うんだけどな」
まっすぐ優しい言葉をかけられて、目が合わせられなかった。
その日から、私はベルナルド様の自室には近づかなかった。植物園の手入れをしながら、戦に向けた物資の調達を手伝う。
避けるように忙しく動いているときだけ、大好きな彼の顔を思い出さずに済んだ。
しかし、最後まで黙って別れようと決めていた開戦前夜、ベルナルド様に部屋へ呼ばれた。
北の塔の自室へ来るのは、想いを伝え合った日以来だ。



