いちるの望みをかけて頼むものの、グレイソンの態度は変わらなかった。
「ずっと手に入れたいと思っていた君を逃すチャンスを与えるわけにはいかないよ。そこまでレドウ草が欲しいなら、迷うことないだろう?妻にさえなれば、俺を愛してくれなくても構わないよ」
愛してくれなくても構わないだって?それで譲歩したつもり?結婚をなんだと思っているの。
いつまで経っても平行線だ。この間にも、ベルナルド様は苦しんでいる。
これまで何度も私を救ってきてくれた彼を助けたい。生きて幸せになってほしい。
たとえ、私がそばにいなくても。
心の整理がついたと察したグレイソンは低く続けた。
「契約は成立だな。一週間後にウチの植物園へ来い。レドウ草を準備しておこう」
グレイソンの顔は見なかった。無言でうなずいてその場を去る。心の中はひどく荒れていて、感情さえも凍りつく。
未来は真っ黒に塗りつぶされて見えないが、そこにベルナルド様の姿がないことだけははっきりと自覚していた。



