どうやら彼らはアカデミーの学生らしい。薬師の世界で権威のある憧れの人物と出会えて興奮しているようだ。

 そういえば、古城の薬室にある本棚にドミニコラさんが執筆したものが数多くあった。やはり陛下専属の薬師は相当の実力者である。


「私、向こうのベンチにいますね」

「あぁ、ごめんね。少し待っていてもらえるかな」


 ドミニコラさんは自らを性悪と公言してはいるが根は紳士であるため、羨望の眼差しを向ける薬師のたまごたちを無下に出来ない。

 声をかけて、広場の木陰にあるベンチへと腰を下ろした。雲ひとつない夏の青空がいつもより高く見える。

 ひとりになると、頭に浮かぶのはいつもベルナルド様だ。二週間近く顔を合わせていないせいか、会いたい気持ちが強くなっていた。


『お前を残して死ぬとわかっていて、縛るようなセリフは口にしたくなかった。だが、俺は悪い男だからな。どうしても、お前にそばにいてほしい』


 告白の日から、たしかにふたりの関係は前進したはずだった。

 しかし、明日からも部屋に来いと呼んでおきながら、当の本人が古城を空けているため話が出来ずじまいである。

 正直、どんな顔をして会えばいいのかわからなかったから助かった。

 婚約者のフリはやめたけど、正式な婚約者にはなっていない。私たちって、恋人?