気分が落ち込む中、ぽつりと尋ねる。


「こんなに探してもないなんて、なぜレドウ草が市場から姿を消したのでしょうか」

「万能薬として名が広まっていたけれど、数十年前にある植物園の管理者が苗ごと買い占めたらしいんだ。現在薬が出回っていないのを考えると、研究のために買われたというより、利益の独占と自身の植物園の価値を高めるためだったのかもしれないね」
 

 無力感ともどかしさが込み上げた。

 ドミニコラさんは国内の植物園を全て訪れて調べたが、それでも出会えなかったとぼやく。

 せめてレドウ草を買い占めた植物園の関係者がわかれば、交渉の余地があったかもしれないのに。


「すみません、もしかして薬師のドミニコラ様ですか?」


 帰り際、歩いていると白衣の若者たちに声をかけられた。本人が「はい、そうですが?」と答えるや否や、彼らの目が輝く。


「いつも、学会で研究発表を拝見しております!先月発行された論文紙も読みました。少しお話ししてもよろしいですか?」

「エルフだとお聞きしましたが、図鑑の著者近影とまったく変わらないんですね。子どもの頃、ドミニコラ様のまとめた植物図鑑をみて薬師の道を志したんです」