「やっぱりエスターさんが掃除をしてくれると薬室が散らからなくていいね。また一緒に働けて嬉しいよ」


 七月中旬。薬室で本棚の整理をしていると、白衣を着たドミニコラさんがフラスコを操りながら口を開く。

 薬師として再び古城で暮らすのを許可してもらってから、こうして仕事に励んでいる。ボナさんをはじめとした使用人達も喜んで迎え入れてくれた。


「今後はずっと古城で働くのかい?」

「ベルナルド様が『出て行きたいと思うまではここに居ろ』とおっしゃってくれたので、そのつもりです」

「ははっ。主は丸くなったね。侵入者をことごとく切り捨てていた頃とは別人だ」


 そういえば、私も初めて古城に来たときは殺されかけたんだっけ。怖くて仕方がなかったけど、今思うと懐かしい。

 ベルナルド様は、私を縛るつもりはないと告げた。古城から他の土地へ行きたくなったら自由に旅立っていいし、気にやむ必要もないとのことだ。

 今さら、私があなたから離れる未来を選ぶと思っているのかしら?


「主とうまくいっているみたいだね」