「会談がはじまれば、応接室の空調にルビ草の霧が混じってしまいます。それまでに、なんとしてでもここを出るべきです」
「もちろん、やすやすと殺される気はないよ。でも、こちらとしてはシラを切られる前に、モンペリエ国が国ぐるみでエピナント国の陛下と騎士団を始末しようとした証拠がほしい」
たしかに、敵は、舞踏会のときと同じく冷酷な獣の噂に便乗してベルナルド様に罪をかぶせるつもりかもしれない。
証拠を掴まずに言いがかりだけで会談が中止になれば、また同じ手を使われる可能性があるのだ。
「とりあえず、俺は陛下に報告するよ。エスターちゃんも危ないから早くここから……」
「なにをしている」
レンテオさんの背後から低い声が飛ぶ。
肩越しに見えたのはモンペリエ国の腕章だった。若い騎士が、険しい顔でこちらをにらんでいる。
背筋が震えて緊張感が高まるが、レンテオさんはポーカーフェイスで答えた。
「あぁ、すみません。応接室に向かう途中で可愛いメイドを見かけたものだから、口説いていたんです」



