ロータリーに、エピナント国の紋章が入った馬車がとめられていた。もうベルナルド様達が来ているという証である。
「なにをしている。荷物の搬入はこっちだ」
玄関からまっすぐ入れるわけもなく、馬車は建物の裏手にとまった。担当者として迎えたのは五十代くらいの男性だ。
「中身を見せろ」
ご丁寧に箱を確認している。
やはり中身をすり替えなくて正解だった。おそらく、この男性も裏取引に加担している敵だ。少しでも怪しい動きをすれば、疑われていただろう。
「たしかに受け取ったよ。早くエピナントへ帰りなさい」
用が済むなりしっしっと追いやられて、馬車はもと来た道を戻りだした。横目で確認すると、荷物は倉庫に運ばれている。
私の仕事はここからだ。
「すみません。お手洗いを借りに行ってもいいですか。お腹の調子が悪くて」
迎賓館から少し離れた道で、御者の男性に声をかけた。ひとりで目的地まで戻り、中の様子をさぐる。
敷地内を歩いて作戦を練りたいところだけど、この格好では自由に動けないわ。
いちかばちか、可能性に賭けよう。



