悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました



「本当に助かりました。ベルナルド様がいなかったら町に帰れなかったかもしれません」

「感謝をする前に反省しろ」

「お、おっしゃる通りです」


 頭に骨張った指が置かれた。力加減をした手になでられる。


「俺はお前を危険にさらすために手放したわけではない。これからは厄介ごとに首を突っ込むんじゃないぞ」


 愛しさを帯びた甘い声が鼓膜をくすぐった。やや雑に髪を乱して離れる余韻が胸を打つ。

 ランジェット夫妻やボナさんは決してしないであろう男らしい仕草に、奥底にしまい込んだはずの恋心があふれる。

 顔を上げた先で、長いまつ毛に縁取られた黄金の瞳と視線が合った。


「命を無駄にするな、子兎」


 彼が放つからこそ、言葉の意味がより重い。

 上着をひるがえして広い背中が遠ざかっていく。手を伸ばしてしまいそうで、返事ができなかった。

 一度も名前で呼んでくれなかったな。

 離れたのは物理的な距離だけではないと悟った瞬間、涙が頬をつたった。

 袖で雫をふいて歩きだす。

 今さら悲しくなるなんておかしい。もう、とっくに心を切り替えたはずなのに。

 いつもあの人は流星のごとく私の前に現れる。颯爽と危機から救って、ふらりと姿を消してしまうのだ。