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「起きろ、子兎」
低い目覚まし声に意識がはっきりした。
まぶたを上げると、ヒトの姿に戻り、品の良い服に身を包んだ陛下がこちらを見下ろしている。
洞窟の外は晴れていて安心したが、太陽の位置に違和感を覚えた。
「えっ。もしかして、もう朝ですか?」
「雨は昨夜のうちにあがったが、お前が気持ちよさそうに寝ていたから起こさなかった。獣のうろつく夜道に放り出すのも危険だろう」
まさか、日付が変わるまで寝てしまったなんて。
あのモフモフのせいだわ。居心地が良くて上質なベッドみたいなんだもの。
「すみません、お仕事の途中なのに付き合わせてしまいました」
「問題ない。ノラはすでに対処済みだ。それよりも腹が減っているだろう」
眠っている間に狩りをしたのかと動揺したが、彼が差し出したのは美味しそうな果実だった。
市場でも売られている赤い実はちょうど食べごろで、虫にも食われていない。
ふたり並んで空腹を満たした後、洞窟を出た。森を歩きながら頭を悩ませる。



