雨はおさまりそうになく、ふたりきりの空間には沈黙が流れる。もう少しこのままでいるしかないようだ。
なんとなく、ひとりぶんの距離をとってお互い座った。
「さっきは、助けてくださってありがとうございました」
「雨をしのごうと駆けていたら、たまたまお前が目に入っただけだ。幻かと疑った」
「私もまたお会いできるとは想像していませんでした。なんだか、初めて会った夜みたいですね」
嵐の夜、野犬に囲まれて殺されそうになった私を助けてくれた。美しい白い獣は見惚れるほど綺麗で、まだベルナルド様の正体を知らない私は「ラヴィス」と呼んで可愛がっていたっけ。
とても恥ずかしい過去だが、私にとっては大好きな人と出会えた大切な思い出だ。
気持ちを自覚した今、隣に視線を向けられない。少しの言動で想いがバレてしまいそうで怖かった。
古城を出て、もうなんの関係もなくなった私たちは婚約者でも友人でもない。
それなのに、胸が痛むほど一緒にいれて嬉しいと感じている。



