悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました



 慣れない森を進み、小さな洞窟を見つけた。ほっと胸をなで下ろし、雨をしのぎながら濡れたケープを脱ぐ。

 一息ついたはいいものの、雨が上がる気配はない。

 この地域は夏の近づいた温かな気候が安定しているのが救いだけど、一晩過ごすことになったらさすがに寒そうね。少し雨が落ち着いたら走って町まで帰ったほうがいいかな。

 考え込んでいたそのとき、洞窟の奥からなにかの気配がした。

 勢いよく振り向くと、暗闇の中で獣の目が光る。


「ひっ!」


 恐怖で呼吸が止まった。

 目の前に現れたのは茶色い毛並みの狼だ。明らかにボサボサで、自然の中で暮らすノラだとひとめでわかる。

 獣人ではない。これは、ヒトの言葉がわからない完全な獣。ナワバリに入り込んだ私を威嚇している。

 殺される……!


「ガルルル」


 聞き覚えのあるうなり声にはっとした。

 背後から私を抱き寄せたのは、たくましい男性の腕だ。雨に濡れて雫のしたたる銀の髪が視界に映る。

 立派なケモ耳と黄金の瞳は、二度と会えないはずの彼だった。