「陛下、レンテオ団長から公務のご連絡が入っております。なんでも、王都近くにある北の森にノラ化した獣が巣食っているらしく、たびたび旅人が被害に遭っているそうです」
「俺にノラのしつけをしろと?」
「いえ、陛下ご本人の手をわずらわせるまでではないそうなので、森へ騎士団を派遣する許可をいただきたいとの話です」
国民の暮らしを快適にするために尽力するのも王の務めだ。ベルナルドは精力的に公務を行なっているが、その姿が表に出ないことも悪名をとどろかせる原因だろう。
ただ、レンテオからの伝言にあるとおり、わざわざ辺境の地に立つ古城から本人が出向くほどの問題とも思えない。
しかし、ドミニコラの予想に反し、陛下は重い腰を上げる。
「馬車を用意しろ」
騎士にそう告げた主に唖然とした。
「まさか、自ら出向くつもりですか?」
さっきまであんなに沈んでいたのに。
最後の言葉を飲み込んで尋ねると、低い返答が来た。
「城の騎士団が動くよりも、俺がしずめたほうが早いだろう。素行の悪い獣を統率するのも王の仕事だ」
まるで公務に打ち込んでエスターを忘れようとしているようだ、とは口にできない。
騎士と薬師は、颯爽と出て行く背中に、主の心中を察したのだった。
《ドミニコラ視点*終》



