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《ドミニコラ視点》


「行ってしまわれましたね。本当にこれで良かったのですか」


 謁見の間へやって来たドミニコラは、玉座から立とうとしない主を見上げて口を開いた。

 表情こそ変わりはしないが、たしかにベルナルドのまとう空気が悲しみを帯びた気がしたからだ。

 しかし、長いまつ毛に縁取られた黄金の瞳は冷たい。


「良いに決まっている。あの子兎に未練はない」

「子兎ですか。主には、彼女がそんなに可愛らしく見えているのですね」

「なにが言いたい」


 ピリッと緊張感が張り詰めた部屋に、ドミニコラの声が響く。


「未練はないと断言しておいて、僕の挑発を軽く受け流せないほど機嫌が悪いではありませんか。主の脚力なら、今追いかければまだ間に合いますよ」

「ふざけたことを言っていると、たとえお前でも容赦はしないぞ」


 そのとき、扉がゆっくり開かれた。険悪な空気を察しておずおずと顔を出したのは若い騎士だ。