小さな声とともに、ベッドが軋んだ。黄金の瞳がうっすらと開く。


「ベルナルド様」


 つい手を握って声をかけると、視線が交わった。

 私とドミニコラさんを交互に見やり、やや乱暴に体を起こす。不完全な状態でベッドから出ようとする彼に驚いた。


「お待ちください。どこへ行くんです?」

「公務に決まっている。会談まで二時間を切った」

「無茶ですよ、そんな体で」


 命に関わる病だと知り必死に止めると、その様子から今までの状況を察したらしいベルナルド様は鋭く薬師を睨んだ。


「お前、エスターに話したな」

「彼女は知っておくべきだと判断しました。生涯の伴侶になるお方でしょう?」


 すると次の瞬間、黄金の瞳が鈍く光る。


戯言(たわごと)を抜かすな。俺はこの呪われた人生に誰も縛り付ける気はない。伴侶など作るわけがないだろう」


 ドン!と硬いもので殴られた衝撃に襲われた。

 ショック?まさか。あたりまえの事実を突きつけられただけだ。

 私は本当の婚約者ではない。愛し合っている恋人はおろか、友人とも呼べない仲である。ふたりを表すのは、さしずめ“利害が一致している共犯者”だろう。

 世間をあざむき、真実を隠し続けている。