事情を知らなかったとはいえ、トラブルを呼び込んだ罪がある。古城に雇われていなければ、カティアに目をつけられることもなかっただろう。
「主はね、半年前に発病して、秘密裏に古城へ移り住んだんだ。緑豊かなこの土地は空気が綺麗で療養にはもってこいだからね」
「病気を患っているのを隠そうとしたんですか?」
「あぁ。王がいつ死ぬかもわからない体だなんて、国家を揺るがす大問題だ。これは、主と僕しか知らない秘密だよ」
偽りの婚約者に利用価値があるというのは、この話だったのか。
傾国の美女に溺れているフリをしてドミニコラさんの植物園がある古城にこもり、過ごしていた。
薬室で薬の瓶が割れてしまったから服薬していないとすれば、ここまで症状が悪化してもおかしくない。
「病は治るのですか?」
「研究を重ねて薬草の材料をひと通り揃えたんだが、まだ薬効が確立していないんだ。なにかがひとつ足りない」
「そんな。じゃあ、ベルナルド様は……」
言葉を詰まらせると、ドミニコラさんは低く告げる。
「常備薬はあくまで気休めで、進行を遅らせるだけだ。この痣が心臓まで届いたとき、主は死ぬ」



