悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました


 品の良い男性の声が響く。

 騒がしかった人々が一斉に黙り、声の方を向いた。片眼鏡に中折れ帽を被ったジャケット姿のシルエットが、薬室の扉の前に立っている。

 コツコツと靴を鳴らしてこちらに歩み寄った彼は、ベルナルド様の容体を冷静に観察しているようだ。金色の長い前髪から赤い瞳が透けている。

 この人は誰?

 すると、ベルナルド様のまぶたがわずかに持ち上がった。焦点の定まらない目が男性をとらえた瞬間、安堵の気配がする。


「……遅い……」

「申し訳ございません、(あるじ)。間に合って良かった。すぐ楽になります」


 テキパキと抱えていた鞄から木箱を出した男性は、手慣れたように数種類の液体を混ぜ合わせていく。綿に染み込ませたアルコールの匂いが鼻を刺した。

 木箱に入れられているのは、薬草?もしかして彼は……。

 試験管の中の色味を確認してベルナルド様の首を支えた彼は、ゆっくりと薬を口へ流し込んだ。顔を歪めていた陛下も、やがて呼吸が落ち着いて頬に赤みを取り戻す。