悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました


 穏やかなはずの花の香りに胸騒ぎがした。小瓶を片手に持って、城の階段を駆け降りる。


「レンテオさん、お願いがあります」


 突然駆けてきた私に動揺する騎士団長は、目を丸くした。


「このコロンの匂いを追ってください。ベルナルド様がどこにもいないんです」

「なんだって?」


 状況を理解したレンテオさんに小瓶を渡す。おそらく、小瓶を倒したときに衣服についたはずだ。獣人の彼なら、嗅ぎ分けて行方を探せるかもしれない。

 猫耳と尻尾を出して半分獣に戻った彼は、花のコロンをあおぎ嗅いだ。目を閉じ嗅覚に神経を集中させて、空気を調べている。


「どうしてだろう。城内からはしないな。望みがあるとしたら外だね」


 急いで玄関を開けるが、目の前は暴風雨だ。屋根など関係なしに吹きつける雨は止む気配がない。


「雨のせいで匂いが消えている。悪いけど、この先は方角がわからない」

「大丈夫です。敷地にいるとしたら、後は植物園くらいしかありません」


 傘も持たずに駆けだした。泥がはねるのも気にせず、温室を目指す。希少な植物園の環境を変えないように最新の注意を払いながら陛下の影を探すものの、どこにもいない。

 嫌な予感がする。